【連載】あなたの知らない、2030年のシゴト　～「製造／建設分野」編～

2013年、英オックスフォード大学のマイケル・Ａ・オズボーン准教授が「人工知能の発展に伴い、10年後には人間の仕事がなくなる」というショッキングな論文を発表しました。2015年には野村総合研究所が同教授と共に「日本の労働人口の49％が人工知能やロボット等で代替可能になるという試算」が公開されています。そして2016年3月、Google社の開発した人工知能(以下AI)の囲碁プログラム『アルファ碁』がプロ囲碁棋士の李セドル九段との対局に勝利をしたのは記憶に新しいニュースです。AIが人間に勝利するのはまだ10年以上掛かるといわれていただけに衝撃を受けた人も多かったのではないでしょうか。
一方で日本では『2025年問題』と呼ばれる、日本全人口の4人に１人が後期高齢者という超高齢化＆少子化社会へと突入するといわれています。リクルートワークス社の調査結果によると「2025 年に向けては、人材不足と人材余剰が同時発生する。“人が余っているのに、人が足りない”、“仕事があるのに、仕事に就けない”というような事象が、広範囲に、ただし局所的には今までよりも解消が難しい形で発生する」とも言われていています。

そんな中、カナダのCTS inspired minds career2030というサイトで、2030年の仕事として非常に秀逸な視点から仕事事例を公開しているので、数回に分けて紹介したいと思います。

第4次産業革命とも言われるAI技術の台頭による産業構造の変化と日本が向かえる社会課題の中で、どのような経験を積みどんなスキルを身に付けるべきかというヒントになるかもしれません。

※inspired minds career2030 とは…

教育と専門的なキャリアパスの視点からカナダの未来ビジョンを示したものです。カナダの奨学金信託財団によって運営されている、カナダの子供のための高等教育を支援するための奨学金制度の専任販売代理パートナーのCTSが運営しています。

製造／建設分野／Manufacturing and Constructio

家具修復技術者／Furniture Refurbishing Technician

ソファーや椅子、ベッドなどの家具は修理に出すより買い換えたほうが安く済む場合が多いが、2030年には輸送コストや人件費などがあがりモノをリプレイスすることが決して安価ではなくなるだろう。しかしながら3Dプリンターなどのテクノロジーと製造技術の進歩により、モノを修復するコストは下がると予測される。家具修復技術者は修復・改装注文書に従って作業ロボットに指示を出し、監督することが仕事だ。
またプロジェクト進行中の予期せぬトラブル対応にも対応する。さらにはリサイクルデザインスペシャリスト（再利用設計スペシャリスト）とも協力し、例えば環境に優しい照明機能を追加したり、通信やエンタテインメントなどの新しい機能を組み込んだりもする。

再利用設計スペシャリスト／Recyclable Design Specialist

「製品の設計時に再利用可能性を考慮しておかなければ、リサイクルは本当に難しくなる。」2030年には、製造業者はリサイクルをコストとしては捕らえず、将来的に部品をリサイクルすることを目的として製品設計をするだろう。それはリサイクルコスト削減だけでなく、将来的に製品を安価に製造できることに繋がるためだ。再利用設計スペシャリストは、デザイナーやエンジニアが作る製品を構成する部品を簡単にそして経済的にリサイクルできるようアドバイスをする。

メイクシフト組み立てエンジニア（模造構造エンジニア）／Makeshift Structure Engineer

2030年には3Dプリンターが作るものはカップやキーホルダーから大きく進化している。自然災害や紛争地域、医療災害などで緊急事態に一時的な建物を作るようになるだろう。移動可能なトレーラーのような住宅ユニットなどは数時間から数日で3Dプリンターで作られるようになる。
メイクシフト組み立てエンジニアは、災害救助隊員と密に協力し3Dプリンターが正常に動作するかを監視する。必要な能力は3D印刷に関する技術に加え、安全・衛生面の知識。また緊急事態に必要とされるため、何を優先すべきか？という迅速な判断力を身に付けなければいけない。

アジャイルサプライチェーン担当者／Agile Supply Chain Worker

プロジェクト型エコノミーとなる将来は、製品はパッケージ化や完成品として製品化されず、また保管場所も1箇所ではなくなる。このプロジェクト型に対応した企業は、常に新しい素材や部品を世界中から探し出しサプライラインンを企業に繋げ、コストをコントロールし、さらにその回転を早めるアジャイルサプライチェーン担当者が必要になる。北京とトロントがサイバースペースではすぐ隣にあるように、これからのグローバル市場では都度カスタマイズ可能な製品を構築していくことが求められる。例えば今週はカザフスタンから鉄道を輸入するほうが安いが、来週は違うかもしれないということである。求められることは厳しいが非常に創造的な仕事となる。

※アジャイル：「俊敏な」「すばやい」という意味の英単語で、要求仕様の変更などに対して、機敏かつ柔軟に対応するためのソフトウェア開発手法。アジャイルでは、仕様や設計の変更があることを前提に開発を進めていき、徐々にすり合わせや検証を重ねていくというアプローチ（引用元：コトバンク> ASCII.jpデジタル用語辞典）

ガーベッジデザイナー（廃棄物設計者）／Garbage Designer

2030年に普及する新しい形のリサイクルは「アップサイクリング」である。廃棄物をより良い品質の精神に変える習慣であり、例えば、古い歯ブラシをブレスレットに、または古い雑誌を植物の肥料やタンチョマットに変えることだ。廃棄物設計者は違う製品から違うものを作るために、製造プロセスの副産物から新たな高品質の材料に買える方法を模索している。
また廃棄物を作らない方法を設計することも求められる。よって環境配慮に基づいた将来の経済において非常に重要な役割となる。従ってメーカー企業は廃棄物設計者を雇い購買する材料を再考していくだろう。

バイオフィルムインストーラー（微生物フィルムシート設置者）／Biofilm Installer

ごみや下水処理を自分達で処理する時代が2030年にはあたりまえとなる。現時点では想像し難いかもしれないが、それはバイオフィルムによって可能となる。
バイオフィルムとは、多数の生きた細胞同士が集まって表面を形成しているフィルムシートのこと。例えば、排水と接触すると汚水処理をするコーティングに変わる。浴室やキッチンの表面をコーティングすることで環境に優しい家作りを実現できることになる。このバイオフィルムは建設業を変える可能性が高い。住宅所有者や企業は自分達のゴミを処理し、不必要なクリーニングを減らし、大気や水質を改善するようになるだろう。
バイオフィルムインストーラーは、エネルギー効率の高い建物の建築に大きな役割を果たす。例えば、空気の質を改善するためにベッドルームにバイオフィルム仕様の「リビングウォール」の設置を提案するだろう。バイオフィルムインストーラーは独立した存在であり、各クライアントのニーズに合わせたソリューションを提供する。

製造／建設分野においては2030年の仕事は環境配慮が大きなテーマとなり、高度なリサイクルによる資源の有効活用について多くが語られていました。またリサイクルをアップサイクルと呼んだり、そもそも製品の設計段階からリサイクル可能性を考慮したりと言った概念も出てきました。
日本を筆頭に先進諸国では少子高齢化と人口減少が社会問題となっていますが、世界規模でみると途上国では人口が爆発的に伸びており、2050年には世界人口は2000年の60億の1.5倍の90億に達すると予測されています。この人口爆発の背景には資源・エネルギーの大量消費をせざるを得ない状況が続き、それによる環境破壊が引き起こされます。人口が減っていく先進諸国にとっては、如何に資源とエネルギーを効率化し環境に優しい経済活動が出来るかが重要なポイントです。しかし同時にそればビジネスチャンスでもあり2030年の仕事を考えるヒントに繋がるのではないでしょうか。