著者・あらすじ
齊田興哉
東北大学大学院工学研究科 量子エネルギー工学専攻 博士課程修了、工学博士。宇宙航空研究開発機構JAXAに入社。当時、日本最先端の技術と性能を持つ人工衛星の開発プロジェクトチームへ配属され、人工衛星の設計フェーズ、打ち上げ、運用までを2機経験した。その後、日本総合研究所へ入社。宇宙ビジネスのコンサルティングに従事し、政府事業や民間企業を支援したのち、独立。
あらすじ
宇宙ビジネスの専門家が、テクノロジーの未来を予測します。「犯罪を防ぐテクノロジー」「空飛ぶタクシー」「不老不死の薬」など、テクノロジーがどのように発展し、どんなビジネスに活用できるのかをまとめています。
1. 犯罪を未然に防ぐ
犯罪は起こってから気づく「事後的」なものです。被害者が出てしまう前に犯罪を防止することはできないのでしょうか?実のところ、犯罪予測ができるテクノロジーが存在します。そのカギとなるのが「画像認識AI」と「特殊なアルゴリズム」です。「画像認識AI」とは、AIなどを使って、防犯カメラの映像から不審者をリアルタイムに検知できる技術のことです。そもそもですが、罪を犯そうとする人には、普通の人とは異なる特異的な動きや表情があるといいます。これを「画像認識AI」が認識します。行動に不審な点を特定したら、その人に対して音声で注意したり、ライトで照らしたりして、犯罪を未然に防ぐといった仕組みです。
「特殊なアルゴリズム」とは、犯罪予測アルゴリズムを使って、いつどこで犯罪が起きるかを予測できるシステムです。過去の犯罪情報、都市に関する情報、地理情報などがインプットされ、この情報による予測を可視化します。犯罪発生地点を示し、警察や自治体などのパトロールを最適化するのです。自治体や公共機関、小売店、コンビニエンスストア、金融機関や警備会社などに向けたビジネスを展開できます。
2. 空飛ぶタクシー⁉
行き先さえ言ってしまえば、あとは勝手に目的地へ着くタクシー。とても便利ですが、渋滞にはまってしまうのは、大きなデメリットです。しかし近い将来、渋滞とは無縁のタクシーに乗ることができるかもしれません。どんなタクシーなのかというと、「空飛ぶタクシー」です。空飛ぶタクシーとは、eVTOL方式という、ヘリコプターのように助走なしで浮上できる電動垂直離着陸機のことです。操縦システムを電気的に制御する方式で、現時点だと、重量、電力関連、航続距離、飛行速度などは不明ですが、定員は4名が搭乗可能と言われます。
この空飛ぶタクシーで重要なのは交通管理です。そのテクノロジーとして、eVTOLを開発しているスタートアップ企業「Eve」では、「UATM (Defines Urban Air Traffic Management))を採用しています。これは、たくさんのeVTOLが飛行する中で、空の安全を守る重要な技術です。2026年には、ニューヨークとロンドンでエアモビリティサービスを展開する計画があがっています。このeVTOLのビジネスモデルが普及すれば、運航範囲が広くなり、空港を拠点とせず、海外へと行けるメリットもあります。
3. 長生きできる薬
「不老不死の薬があれば…」と思ったことはありませんか。実のところ、不老不死とまではいきませんが、「老化を遅らせる薬」があるのです。いくつかの事例を紹介します。東京大学医科学研究所の中西 真教授らは、高齢のマウスに「老化細胞」だけを死滅させる薬剤を投与。その結果、加齢による体の衰え、生活習慣病などが改善されたといいます。次はハーバード大学です。ハーバード大学のデビット・A・シンクレア教授は、iPS細胞を使って高齢のマウスの視力を回復させることに成功しました。また別の研究では、NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)という薬を開発。サーチュイン(長寿遺伝子)の働きを活性化させ、150歳まで寿命を伸ばせる可能性があります。
米国のUnity Biotechnologyは、加齢性疾患を遅らせたり、止めたり、元に戻したりすることで、健康寿命を延ばす治療法を開発。さらに老化細胞を排除し、それによって変形性関節症、眼疾患、肺疾患などの加齢性疾患を治療する「老化細胞除去薬」を開発しています。これら不老不死の薬は、当然ニーズが高く、究極の薬なので、高価格で販売されることが予想されます。それらを踏まえると、富裕層相手のビジネスとなるでしょう。
4. コミュ障でもOK!
コミュニケーションが苦手という人が増えています。しかし、近い未来この悩みは皆無となるかもしれません。そんな夢のようなテクノロジーは「ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)」と呼ばれています。このBCIは、脳波やニューロンをキャッチできるので、キーボード入力や音声入力しなくても、頭で思ったことを出力できるのです。「脳に埋め込むタイプ」と「装着するタイプ」があります。
「脳に埋め込むタイプ」は、イーロン・マスクが創業者であるNeuralinkが開発しています。慣性計測センサー、圧力センサー、温度センサー、丸一日使えるバッテリーも備わっています。このBCIは、脳からの神経信号を増幅し、キャッチしてBCIに内蔵されたアナログ/デジタル変換器でデジタル化されます。実際に、人間に埋め込む必要があるので、臨床試験のための承認を受ける必要があります。このBCIはコミュニケーションに革命を起こすと言われ、医療・介護の現場。自動車メーカー、家電、一般企業やエンターテインメント業界に向けたビジネスとなるでしょう。
まとめ
『ビジネスモデルの未来予報図51』をご紹介しました。著者は最後に、「あなたが本書から少しでも何かを感じ取ったり、考えたりしたことがあれば、本書の目的は達成した」と述べています。わたしたちは、何か新しいことを知った時、それを実際に行動に移すことが理想とされます。しかし重要なのは、真似ることではなく、自分なりに考え、アレンジすることです。そのオリジナリティが、次へと繋がるからです。