【Special interview】誰もが最初は新人だった。あの人の”はじめて”物語 #05レジェンド松下

【Special interview】誰もが最初は新人だった。あの人の”はじめて”物語 #05レジェンド松下

今や業界では雲の上の存在と思えるような成功者やその道の第一人者でも、 最初は誰もが新人であり、多くのつまずきや戸惑い、苦労を経験しています。誰だって最初からできたわけじゃない。初めから自信があったわけじゃない。 人生の様々な節目での、あの人の「新人時代」にフォーカスし、明日への勇気に繋がるヒントをお届けします。


今回のゲストは、テレビショッピングやバラエティ番組などで大人気の実演販売士、レジェンド松下さん。テレビショッピングで1日に1億8000万円以上売った実績もある、業界トップクラスの実力者です。そんな大活躍のレジェンドさんに、この世界に入ったキッカケや新人時代の苦労や失敗、伸び悩んだ時期の突破法などじっくりとお伝えします!

誰もが最初は新人だった。あの人の”はじめて”物語

株式会社コパ・コーポレーション 取締役/実演販売士 レジェンド松下さん

うまくやろうとしないほど、うまくいく!
こだわりや執着を手放した時、いい仕事ができる

野球場でアルバイト。売れない逆境を乗り越えた初めての成功体験

 地元が横浜で、学生の頃から横浜ベイスターズ(当時)のファンでした。大学受験に失敗し、浪人生になってしまったので、大好きな野球で受験勉強の鬱憤も晴らせて、お金も稼げることから、横浜スタジアムで売り子のアルバイトを始めました。
 野球観戦で観客が飲みたいものと言えば、やっぱりビール。ところが、僕が売っていたのはコーヒーでした。案の定、ビールのように売れるわけもなく、最初は鳴かず飛ばず……。どうしたら売れるのだろうと、自分なりに分析していくとベイスターズ側の内野席にいたほうが効率的に売れることがわかったんですね。さらに攻守交代の合間のタイミングに買ってくれる人が多いので、そこを中心に狙いました。
 編み出したのは、まずお客さんに注目してもらうこと。目の前に座っている200人ぐらいの人たちに向かって、「すみません、聞いてくださーい!」と叫ぶんです。そして「次、ベイスターズが点を取ったら、コーヒーを買ってください! 今日は全く売れていないんです。浪人生でこのままじゃバイト代がもらえないからお願いします!」と言うと、何人か買ってくれる人が出てくるんですね(笑)。

 買ってくれた人には、手書きで作った応援歌を配ったり。「優勝するぞ~!」とウェーブを起こして場内を盛り上げてみたり。ベイスターズが点を取る度に、買ってくれる人が増えていきました。コーヒーの売り上げは通常、1日20~30杯売れたらいいところなのですが、僕の場合は一日200~300杯売っていまして。周りのバイトの人たちもビックリしていたと思います。この仕事にやりがいを感じていたので、大学に入ってからも2年生ぐらいまで続けていましたね。

 バイト生活は楽しかったですが、実社会に出るための就職活動とはワケが違う。どの道に進んだらよいのだろうと、もがき始めました。
 もともとクリエイターに憧れがあったので、テレビの制作の仕事がしてみたいとテレビ局を受けたものの全滅してしまい……。次にやってみたかったのはコピーライターだったんですけど、ちょうど編集プロダクションのアルバイトで似たような仕事をしていた時に、なんだか違うなぁと行き詰まってしまったのです。

 「じゃあ、自分には何ができるんだ?」と自信を失いかけた時、実演販売士として活躍する人のインタビューが載った新聞記事に心打たれたことを思い出したんですね。その記事を切り抜きして、ずっと大事に取っておいたのです。
 こういう道もあるかもしれないと気づいた時、自分自身、昔から人前でしゃべるのは好きだったし、野球場でバイトした時のように“売る”ことも好きだったので、ゆくゆくは「テレビショッピングに出る人になろう!」と心に決めました。そのためにはまず実演販売の現場で働こうと、インターネットで「実演販売」と検索すると、「コパ・コーポレーション」がヒットしたんです。

 第一希望でも第二希望でもないですが、最後に切羽詰まって、ようやく光が見えた気がしました。早速、会社の門を叩くと、実演販売士のカリスマである和田守弘師匠を紹介され、弟子入りすることになったのです。

しゃべってないのになぜか売れる!? カリスマ師匠の実演販売に驚く毎日

 弟子入りと言っても、何年も下積みを積むわけではありません。現場で見て覚えたらすぐデビューして独り立ちする世界なので、見習い期間は早い人で1週間、僕の場合は1カ月間、付きっきりで学びました。
 ホームセンターや百貨店などで、調理道具や掃除道具を実際に使って見せて販売するのですが、師匠の売り方を見ていると、やっぱりすごいなと見入ってしまいます。商品について何を言ってるかぜんぜん分からないのに、なぜだかものすごい売れるんですよ(笑)。下手したら、まだ何もしゃべってないのにお客さん、もうその商品を小脇に抱えている。師匠が登場しただけで売れるマジックに驚く毎日でした。

 ある時、師匠の話している言葉を全部文字に起こして、より分かりやすくしゃべってみたんですけど、だからと言って売れるわけでもなく。ワケわからないことを言っている師匠のほうが売れるので、必ずしも分かりやすく伝えることが正解じゃないのだなと、「売ることの奥深さ」を知りました。

 落語と一緒でその商品についてマスターして自分のものにしていくと、ある程度は売れるようになっていきます。ただ、売り続ける(売れ続ける)のは難しい。2年間、同じ商品を担当したんですが、毎日同じことをしゃべり続けるのにも忍耐がいるんですね。自分なりに言い方を変えたり、工夫するのですが、これがいつまで続くのか……と果てしない未来に心が折れそうになることもありました。

 この仕事を始めて2年が経った頃、「社員にならないか?」と声がかかり、同時にテレビショッピングに出るチャンスにも恵まれました。
 念願のテレビ出演です。店頭販売でそれなりに売れている自信もあったので、テレビでも売れるだろうとタカをくくっていました。ところが、店舗とテレビの現場は全く違うんですね。とあるテレビショッピングに出演したんですが、カンペを見ても、出演者のどっちにどう振っていいかが分からない。つい今までの癖で、店頭と同じ動きをしてしまったらカメラが付いてこられなくて、大事な場面が映っていない。結局、もう一度、出演者を変えて撮り直しになってしまったんです。その時は自分の未熟さに不甲斐ないやら、申し訳ないやら。穴があったら入りたい気分でした。

 一方で、変なプライドもあって……。それなりに売れる自信があるからこそ、自分が言いたい決めゼリフを出演相手のMCに先に言われてしまうと「邪魔するなよ!」とイライラしてしまうこともありました。
 やっぱり「自分がうまいことを言って売れた!」という気持ちになりたかったんでしょうね。そんな状態ですから、共演者ともかけ合いがピタッとはまらず、そこそこ売れても今一つ突き抜けない。テレビショッピングでの自分の立ち位置はどことなく中途半端で、そうした時期が長く続いていました。

実演販売士としての10年の積み重ねが、ブレイクのキッカケを生んだ

 実演販売でもテレビショッピングでもそこそこ売れるけど、今一つ突き抜けない。そんな時期が10年ほど続いたでしょうか。なかなかブレイクスルーできない自分に悶々とすることもありましたが、商品のことだけは誰よりも勉強しておこうと国内外問わず、様々な展示会に足を運びました。
 10年、いろんな商品を見ていくと時代の流れや傾向が見えてくるもので。同じような商品が数年後にまたブームが来たりと、サイクルが見えるようになりました。そうすると、今どの商品を仕入れたら売れるのか予測がつきますし、同じ種類の商品を日々たくさん見てきているので目利きもできるようになってくるんです。

 実演販売って、与えられた商品をうまくプレゼンして売るのが仕事だと思われがちなんですが、実は商品の仕入れや売り方の企画を考えるのがメインの仕事なんですね。表に出て売るのはあくまで一部分で、水面下での仕込みが最も重要なんです。
 その仕込みのところで、いかに厚みを持たせられるか? 商品のことを隅々まで熟知して、腹落ちさせることによって売り方のアイデアも広がりますし、しゃべる言葉にも魂がこもるようになってくるんです。10年やり続けて、やっとそれが身についてきたんじゃないかなと思います。

 そんな頃ですかね。バラエティ番組から、ちょこちょこお声がかかるようになったのは。
 自分にとって大きな変化のキッカケとなったのは、『月曜から夜ふかし』というテレビ番組に出演させてもらった時です。
 司会のマツコ・デラックスさんや村上信五さんが、商品のことだけじゃなく、僕自身にもフィーチャーしてくれて、いじってくれるようになってから風向きが変わったというか(笑)。これまでずっとうまくいかなかった共演者とのかけ合いが自然体でできるようになって、その場を楽しめるようになったんです。
 
 その時、ハッと気づきました。「僕がうまいことを言おうとするんじゃなく、相手にうまいことを言ってもらえばいい」のだと。
 僕が呼ばれているのは、僕のうまい芸を見たいんじゃなくて、マツコさんや村上さんが「え~なにそれ~!」と驚くリアクションが見たいわけです。だとしたら僕は、あくまで「引き立て役」に徹したらいいんだなと気づいたんですね。

 そうしたら、自分が目立ちたいとか、テレビに出たいという気持ちも一切なくなって、そういう欲がなくなればなくなるほど、テレビ出演のオファーが来るようになったんです。
 うまいことやらなくなった時のほうが、「さすがですね~」って評価されるんだから不思議です。

 引き立て役で悔しいかと言うと、そんなこともなく(笑)。これ、負け惜しみじゃないですよ!

売れない失敗も無駄にはならない。引き出しに入れれば、必ず後で生きてくる!

 テレビに出たい欲もなくなった僕が、なぜバラエティなどの番組に出続けるのか? 
 それは、「商品を集めたいから」なんですね。

 いい商品を紹介すれば、今度は「レジェンドさんにこの商品を売ってほしい」と、商品のほうから寄ってくるようになる。いいものが集まれば、それだけお客さんも喜んでくれるし、買ってくれる。その好循環を作っていきたいからなんですね。おかげさまでそのスタイルは確立できつつあるかなと感じます。

 こんな風にエラそうに武勇伝を語ってますけど、もちろん全く売れないものはありましたよ。吸盤フックだったんですけど、ぜんぜんピタッとくっつかず、お客さんもピタっと来なかったという(笑)。
 でも、懲りもせず、また吸盤フックを売ろうとしていまして。今後、何かしら近い商品が出てきますし、前回失敗したことで何がいけなかったのかを分析しているので、次は成功に導ける自信があります。

 たとえ売れなくて失敗しても、その経験は無駄にはなりません。失敗も成功も全部引き出しの中に入れてストックしていけば、必ずどこかで生きてきます。実演販売士の世界にも若手がどんどん入ってきているんですが、みんな最初から一発ホームランを打とうとしたがるんですよね。その気持ちはよく分かりますが、まず着実に打ち続けて、経験を積み重ねて、知識も筋肉も蓄えていくことが大事なんだと今は胸を張って伝えられます。

 この世界に入る前、クリエイターやコピーライターに憧れ、あっけなく夢破れましたが、実際今、実演販売の仕事でテレビのお仕事ができたり、商品企画やコピーライティングができたりと、まさに夢に近い仕事ができているなぁと感じます。やりたいことから一番遠い入口から入ったのに、結局望んだ通りの道に入れているような気がするんです。

 でもね、まだまだ師匠には追いつけませんよ。あの、何もしゃべってないのに売れるという神がかった商売の極意はいまだ解明できていません。
 同じようにはできないかもしれないけれど、毎日、毎日心を込めて売り続けることで、いつか師匠と同じ景色が見える場所にたどり着けるんじゃないかと思うのです。

レジェンド松下さんの新人時代
実演販売の仕事を始めて最初のころに売っていたのが、キャベツの千切りができるピーラー。この写真は東急ハンズで実演販売を行った時のもの。「毎日、バイクに野菜をのせて日本全国を回っていました。一日中キャベツを切っていたので、匂いをかぐだけで気持ち悪くなるほど。あの時、日本で一番キャベツを切っていたのは間違いなく僕でしょう(笑)。一つの商品にガムシャラに取り組んだ経験が、今に生きていると感じます」(レジェンド松下さん)
取材・文/伯耆原良子
撮影/清水聖子
▼レジェンド松下さんプロフィール 1979年神奈川県出身。法政大学経済学部卒業後、編集プロダクションを経て、実演販売のカリスマ・和田守弘氏に弟子入り。東急ハンズや商品発売イベントで、調理や掃除道具の実演で全国を回る。通販番組やバラエティ番組への出演も多数。紹介した商品は「テレビショッピングで1日に1億8,000万円販売」「東急ハンズの100万点以上ある商品の中で売上1位」「楽天通販サイト売上総合1位」など、業界でトップクラスの実績を持つ。著書に『話し方より大切な「場の空気」の説得術』(KADOKAWA)がある。

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