著者・あらすじ
山極寿一
1952年東京都生まれ。京都大学理学部卒業、同大学院理学研究科博士後期課程退学、理学博士。(財)日本モンキーセンターリサーチフェロー、京都大学霊長類研究所助手、京都大学大学院理学研究科助教授、教授を経て、現在は京都大学総長。1975年からニホンザルやゴリラの野外研究に従事し、類人猿の行動や生態をもとに、人間社会の由来をさぐっている。
あらすじ
ゴリラ研究家が、人間にとって大事なことを思い出させてくれます。「ゴリラと人間の共通点」「ゴリラのコミュニケーション」「ゴリラから教わったこと」など、現代を生きるすべての人に、自分を取り戻す知識をお届けします。
1. 「大事なこと」とは?
本書のタイトルは「人生で大事なことはみんなゴリラから教わった」ですが、その「大事なこと」とは、一体何を指すのでしょうか?それが、もともと人間に備わっている「コミュニケーション能力」のことです。現代は、インターネットやスマホの普及によって、コミュニケーションの形が様変わりしています。それは、「実際」のコミュニケーションではなく、「情報」とのコミュニケーションといっても過言ではありません。
そしてそれら情報は増え続け、わたしたちの生活は忙しくなり、本来、楽しめるはずであろうコミュニケーションが苦痛となることさえあります。様々な情報が乱れ飛び、何を信用していいかわからなくて不安になる。繋がっているようで繋がっていない。やるべきことがたくさんあるのに、やりたいことがわからない。これは、もともと人間に備わっている「コミュニケーション能力」を忘れかけていることにあります。
私たち人間は一人では生きていけません。なぜなら相手がいて、はじめて自分という存在が認識できるからです。相手がいなければ成長もできないし、楽しさを共有することもできません。相手がいて、本当のコミュニケーションをとってこそ、人生は充実したものとなるのです。本書は、ゴリラ研究家が「ゴリラ」の生態系から、私たちが忘れかけている大事なことに気づかせてくれます。
2. ゴリラ「遊び方」を学ぶ
著者曰く、ゴリラから「遊びが楽しい付き合い方を学ぶ場だということを教わった」と述べています。ゴリラは1歳くらいから兄弟のゴリラと遊び始めます。取っ組み合いをしたり、追いかけっこをしたりするので、草が一面なぎ倒され、広場のようになるほどです。年上のゴリラは年下のゴリラと遊ぶのがとてもうまく、長時間にわたって遊ぶと言われます。
10歳近くになる年上ゴリラは、100キロを超える巨体。1歳過ぎの年下ゴリラは10キロから30キロ程度なので力の差があります。しかし、年上ゴリラは年下ゴリラに合わせて、取っ組みあったり、追いかけっこをしたりするのです。年上ゴリラは、時に、追いかける側に回ったり、追いかけられる側に回ったりと、役割を交代しながら遊びます。年下ゴリラはこの年上ゴリラの行動を見ながら、「ルール」を学んでいくのです。
このゴリラの行動から何がわかるのかというと、「遊びを通してコミュニケーションを図っている」ということです。さらに遊びの中で、ルールや役割を学んでいくことができます。わたしたち人間も同様に、「遊び」が最高のコミュニケーションであり、その中で学ぶことがたくさんあるのです。コミュニケーションの一環である、遊びの重要性を見直すことが必要です。
3. ゴリラから「食事」を学ぶ
ゴリラは、一日の大半を「食べること」に費やしているといいます。朝起きるとすぐに、寝床の近くにある草を食べ始めます。高地に住むゴリラは、数種類の葉や草を食べ続け、10時くらいになると、休息します。低地に住むゴリラは、フルーツなどを食べ続け、歩き回るといいます。しかし、たた食べればいいというわけではないようです。ゴリラと言っても集団で暮らす場合、自分より強い仲間がいれば、自分の好きなものは食べられません。反対に自分より弱い仲間、仲のいい仲間がいれば、また違う食べ方になるのです。
一方、人間はどうか?忙しい現代人は「食べること」に時間を使いません。レストランに行けばすぐに好きな料理が食べられるし、コンビニに行けばインスタント食品ですぐ食べられます。これにより、一人でも好きなものが、好きな場所で食べられるので、孤食が増えているのです。ここで気づかなければならないことが、「誰と」が抜けている点です。
人間はゴリラとは違って、食卓を囲むことで、コミュニケーションを図ることができます。このコミュニケーションが図れる「食事」は、仲間関係を調整したり、新しい仲間をつくったりする貴重な時間なのです。孤食が増え続けている今、貴重なコミュニケーション手段である「食事」を見直すことで、楽しい時間を過ごすことができるのです。
まとめ
『人生で大事なことはみんなゴリラから教わった』をご紹介しました。私たち人間とゴリラの共通点は意外にも多くありました。しかし、わたしたちはゴリラより、さらに高いコミュニケーション能力、コミュニケーションツールを持っています。にもかかわらず、「コミュ障」が起こってしまうには、「原点」を忘れかけていたからです。こんな時代だからこそ、原点に戻ることで、自分を取り戻すことができるでしょう。