帰省本能について
帰省本能とは、過去に過ごした場所や生まれた場所に戻ろうとする本能的な行為。帰省本能は動物を対象にして表現することがよくあり、たとえば伝書鳩が手紙を持って自分の巣箱に帰ってくるような能力のことです。
鮭が生まれた川に繁殖時に戻ってくるのも、帰巣本能のひとつといわれています。人間にはこのような動物的な帰巣本能はないといわれていますが、特定の場所が恋しくなるのは本能的なこととは関係ないのでしょうか。
動物の帰巣本能が働くのは、太陽の位置を基盤にしているという説があり、渡り鳥のように太陽の方角で自分の居場所や行き先を知る能力があるとされています。
実際に行った実験では、鳥カゴにムクドリを入れて観察を行ったところ、曇りの日は首が向く方向がバラバラで、太陽の位置がはっきりわかる晴天の日は渡る方角に首を向けていたという結果があります。他にも動物は地球の磁場を使い、動物が自分の生まれた場所の磁気をインプットして、方角を常に覚えているという説もあるようです。
人間の帰巣本能はストレスと関係する

迷子になった飼い犬が、何百キロも歩いて自宅まで帰ってきたという感動的な話を聞くことがありますが、犬の場合は嗅覚や方向感覚など、人間にない能力がありますので、このようなことが可能になるでしょう。
人間の帰巣本能は、犬や猫などの動物的な感覚ではなく、集めた情報を土台にして行動する能力があるため。たとえば知らない土地から自分の家に戻る際、風景や看板などを見ながら自分の居場所まで辿りつくことができます。
しかし全く動物的な帰巣本能が人間に備わっていないわけではなく、生まれた場所や過去の場所に戻ろうとする帰巣本能は多少あり、女性よりも縄張り意識がある男性のほうが強い傾向があるといわれています。
年齢では高齢になると帰巣本能が弱くなる傾向にあるので、若い人ほど本能が働きやすい状況にあるようです。その背景にあるのは社会でのストレス。仕事場よりも家のほうが快適で、ストレス発散もしやすいですよね。人間は帰巣してストレスから解放され、自分を癒す防御システムがあると考えられます。生まれ故郷が恋しいのは、ストレス社会の危険性から逃れたいためなのかもしれません。
長期的記憶があるため
帰巣本能が人間にあるとしたら、それは頭の中の記憶システムが関係していると考えられます。たとえば酔っている人がきちんと家に帰るのは、ある種の帰巣本能ですが、動物的なものではなく人間の頭脳で管理されている記憶のため。
たとえば朝起きてすぐ顔を洗う、駅までの道順など、繰り返し行為により記憶される「長期的記憶」と、すぐに忘れやすい今朝食べたものなどの「短期的記憶」があります。
酔った場合は頭の働きが低下して、短期的記憶を忘れやすくなりますので、長期的記憶にある自宅の場所は覚えていることに。人間の帰巣本能は、長い間暮らした故郷はどのような状況でも体が覚えているように、なかなか忘れない特徴があるのかもしれません。動物が自然と故郷に帰るのとは違う人間の帰巣本能ですが、このような面白い現象には興味が湧きますよね。
故郷が恋しいのは感情が関係する

故郷が懐かしくなり帰りたくなるのは、とても自然な気持ち。本能的な視点で考えると、動物と同じ不思議な能力が「帰りたい」気持ちを刺激しているのかもしれません。
さらに人間の場合は、動物にはない「感情」が帰巣本能に影響を与えるため、恋しい気持ち、懐かしい気持ちが自然と生まれ、故郷に向かう意欲になるのでしょう。友人の存在や近所の人、子供の頃に通ったお店など、自分の生まれた「巣」とはいつまでも鮮明な記憶と刺激が残っています。
ホームシックになるため
帰巣本能は人間の場合、ホームシックも関係していますので、現実から逃れたい時に居心地のよい実家や故郷を思い出します。知らない土地に馴染めない時、一番自分らしく過ごせる生まれ故郷がとても恋しくなりますよね。
結婚して実家を離れる場合のように、現在の生活が安定していても、生まれ故郷はいつも特別な存在です。それは慣れた場所を離れた時の不安や心の痛みがいつまでも記憶にあるため。今の生活では埋められない心の隙間は、ホームシックとして認識しているのでしょう。
まとめ
動物の驚くべき帰巣本能。人間も故郷への熱い思いが帰巣本能のように働くことはありますね。帰りたいと思う場所があるのは感謝したいこと。懐かしい故郷の人たちの顔を思い出す時は、自分の帰巣本能が騒ぎ出したのだと納得してみましょう。